書評『不格好経営―チームDeNAの挑戦』

経営コンサルティング会社のマッキンゼー日本支社で役員にまでなった著者、「そんなに熱っぽく語るなら、自分でやったらどうだ」の一言が元でマッキンゼーを退職、仲間とともにDeNAを築きあげていく過程が描かれています。

内容

子供時代〜マッキンゼー時代

父はきっちり8時20分に出勤し、だいたい深夜11時過ぎに帰宅していた。「これから戻る」という父の電話は母、姉、私の全ての営みの中断を意味した。

ちゃぶ台をひっくり返すなど、相当厳しい父の下で育ったようです

マッキンゼーに就職してからは忙しく平日の睡眠時間は2,3時間、色々と失敗もあり退職することを決意し転職先まで決まっていたけど引きとめられ会社に残ります。

しかしその後は順調に進み結局さらに9年間働いたそうです。

起業

「そんなに熱っぽく語るなら、自分でやったらどうだ」

ソネットの社長に言われた一言で起業を決意します。

同僚2人を誘いネットオークションの会社、DeNAを立ち上げます。しかし外注していたシステムが全く完成していなかった、という驚愕の事実が発生しドタバタとしながらも何とかサービス開始にこぎつけます。

サービス開始当初はWEBでの出品ができず(つまり一般のユーザーが出品できない)、身内などから出品情報を集めデータベースに直接データを打ち込まなければならなかったそうです。

また初期の頃はクレームのメールに対しては社長自ら返事を書くことも。

ヤフオクというネットオークションの巨人の背中を追いかけ赤字を続けますが、業界ナンバーワンを諦め黒字化を目指す方向に路線変更をします。

そして新たに始めたECショッピング事業が順調に進み2003年3月期の下半期に黒字化を達成しました。

モバイル

その後携帯向けオークション「モバオク」に手応えを感じ、モバイルベースへと大きく舵を切ります。

このモバオク、1人のプログラマが2,3ヶ月で作ったと言うことで社内のシステム開発のアプローチが大きく見直されたそうです。いわゆるウォーターフォール的な開発(要件定義、設計、コーディング、テスト)から、プログラマを企画段階から巻き込む方式へと。

それにしてもモバオクのこの成長はいったい何だ。相当なド根性でビッダーズを生き残らせ、黒字化させ、力ずくで成長軌道に乗せた我々には、モバオクの成功がとても異質に感じられた。

モバオクがモバイルという新しい巨大市場の可能性を見せてくれました。

拡大とトラブル

この「モバオク」や携帯サイト向けの広告配信ネットワーク「ポケットアフィリエイト」、カジュアルゲームとSNSを組み合わせた携帯向けのサービス「モバゲー」、「モバコレ」、「ペイジェント」、「ネッシー」などさらに業容拡大を続けます。

しかしその後モバゲーを出会い目的で使い犯罪に巻き込まれるなどトラブルも出てきます。事業も伸び悩みますが、次々とゲームをリリースし「怪盗ロワイヤル」が大ヒットします。

さらにモバゲーをオープン化し、第三者がゲームを開発してモバゲー内で展開できるようになりました。しかしすると今度はDeNAの競合にあたるほかの事業者と取引しないようにさせているのでは、という疑いがかかり公正取引員会から立入検査が入ります。

退任

色々なトラブルはありましたが海外展開やプロ野球球団買収などチャレンジは続きます。

しかし夫が病に倒れ、看病のために退任することを決意します…

感想

「言うのとやるのでは大違い」

経営のアドバイスをするコンサルタントが自分で起業するとどうなるか。

起業メンバーは同じマッキンゼーの2人を誘い、その後もIBMでデータベース関連の技術をとことん極めた人やアクセンチュア出身の人が参加しソネットやリクルートから出資してもらい、肝心のシステムは外注(!)するが進捗の管理がおろそかで結局システムは全然完成しておらず、内製することになるが「こんな素晴らしい仕様書は見たことがない」と言われるほどの仕様書を作成し…

いわゆるITベンチャーの起業物語とはちょっと違っていてコンサルタント流起業といった感じでしょうか。

人物がメインに描かれている印象で前書きに”登場人物の名前は減らすこととなった。”とあったのですがそれでも結構内輪ネタが多い印象は感じました。この本は関係者一同への感謝の手紙、という役割もあるのかもしれません。

あと印象的だったのは著者はかなりマッキンゼーがお好きなようです。いずれ復帰するかもですね。

  • 南場智子
  • 日本経済新聞出版社