書評「値づけ」の思考法

値づけによる利益増加は、その他の販促プロモーションの30倍以上あると主張する著者。お客が買いたくなるような「スマートな値づけ(価格戦略)」を探り当てるために必要な知識と思考法を与えてくれる書籍です。

内容

値づけの論理

まずは価格づけに対する、経営的な配慮についての説明です。なぜ企業はその価格にしたのか?競争に強い企業では、一体どのように価格を設定しているのか?

筆者が近年注目しているのは、ユニクロ・無印良品・ハニーズ・しまむら・ニトリといった、プライスライン(価格帯)がとても狭い企業だそうです。価格帯が狭い店の方が繁盛するのはなぜか?それは

お客の「考えるコスト」を削減し、購買への近道を作る

「コスト・オブ・シンキング(Cost of Thinking)」=「考えるコスト」を軽減してくれるから。しかもその値段が「値ごろ感」のある価格で統一されているとのこと。こういった企業では、はじめに販売価格ありきで、そこから原価を逆算していくそうです。

そして陳列の工夫など、原価を下げていく仕組みも、本書では挙げられています。

スケール重視の低価格戦略

次に低価格な商品を大量に売り捌く、薄利多売のパターンの説明です。

格安ラーメンの「幸楽苑」と「日高屋」が事例として挙げられています。どちらも低価格が売りですが、違う作戦をとっています。幸楽苑は材料を自社の工場で製造するSPA。サイドメニューの多さと価格の安さで、品数をたくさん注文してもらう作戦です。日高屋は賃料の高い駅前の一等地に店を構え、繁忙する時間帯を増やす作戦。学生のランチタイム・サラリーマンのちょい飲み・深夜タクシー運転手の空腹、といった需要を満たすために、24時間営業で、1日13回転させるそうです。

ほかにもコストコの事例が挙げられています。

プレミアム価格戦略

この章では前章とは逆に、数量よりも、より多くの利益を追求するパターンについてです。

事例の1つとして工房系ランドセルメーカーについて書かれています。大手メーカの躍進で苦境に陥った工房系メーカーが、どう活路を見出したのか?ネット販売・SNSなどが助けになったようです。孫のために財布の紐が緩くなる祖父母を巻き込み、プレミアム感のあるモデルの価格が高騰するとのこと。

他にも、ランニング市場やカタログギフト市場などの事例も挙げられています。また、プレミアム感を出すための「モンドセレクション」や「グッドデザイン賞」などについても述べられています。ちなみにモンドセレクションは1商品につき審査料が1,200ユーロで3年間使えるとのこと。意外に安いんですね。

価格の心理戦略

この章では商品やサービスの価格に対する、消費者心理について。

サイズの種類を増やした牛丼チェーンの価格戦略。以前は「並盛」と「大盛」だけだった牛丼も、今では様々な種類があります。

じつは、サイズのバリエーションを増やすと、客単価が上がるのです。

特大サイズのお得感、小さいサイズの「バンドリング(セット販売)」による女性客の単価アップ、などがその理由だそうです。

この章では他にも、列の長さに関する考察などについても書かれています。

価格の調整と顧客満足

最後の章では、値上げと値下げで明暗を分けた事例が紹介されています。

明としては値上げに成功したリンガーハット、暗としてはアメリカのフィリップモリス社の「マルボロ」の値下げによる売上の激減が挙げられています。

他にも「値引き」と「おまけ」の使い分けなどの説明が書かれています。

感想

とても分かりやすくて、読みやすい本でした。価格という武器でどう戦うか、その戦略と戦術について書かれた書籍です。薄利多売・プレミアムといった様々な価格戦略と、それぞれの事例を紹介してくれます。幅広く紹介されているので、知識をストックしておくにはいいと思います。カタログ的に使えそう。

価格に対する雑学的な知識もつくので、今後店に行った時は、そういった裏事情ばかりが気になりそうです。

  • 小川 孔輔
  • 日本実業出版社