書評『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』
六つの回転軸を持つミキサー「マルチミキサー」のセールスで生計を立てていたレイ・クロックはカリフォルニアでマクドナルド兄弟と彼らが運営するハンバーガーレストランに出会います。このレストランに可能性を見出した彼は当時52歳という年齢にも関わらず「マクドナルド」のチェーン展開に生涯を捧げます。
内容
生い立ち
レイ・クロックは1902年にアメリカのシカゴで生まれます。中学の時にはすでに食料雑貨店で働いたり、友人とミュージックストアを開いたりもしました。ピアノも習っていてピアノで生計を立てようと考えた時期もあったそうです。
高校にも進学しますが毎日が退屈で仕方なく、結局学校にはいかずコーヒー豆や装飾小物の訪問販売の仕事をします。途中勃発した第一次世界大戦下、年齢をごまかして欧州で赤十字病院のドライバーとして勤務します。戦争終了後一旦学校に戻るものの一学期しかもたず、その後セールス活動とピアノ演奏で生計を立てることを目指しながら職を転々とします。
セールス
当時付き合っていた彼女と結婚しようとしますが安定した職を持ってないことを理由に父が反対、そこで彼はペーパーカップを売る仕事につきます。途中フロリダに引っ越して別に仕事に就いたこともありましたが、結局はシカゴでペーパーカップのセールスマンに戻り、やり手の彼のセールス活動は会社に大きな利益をもたらします。
ある時、顧客の1人が発明したマルチミキサーに目をつけた彼は勤めていた会社にこの商品の独占契約を勧めます。そして彼の上司が経営していた会社が契約することになります。しかし会社はあまり販売に乗り気ではなかったようで彼自身も会社に嫌気がさしていたこともあり、このマルチミキサーの代理店として独立を目指します。しかしマルチミキサーの独占契約を持つ上司の会社がそれなら売上の60%をよこせというとんでもない要求を突きつけてきます。一旦はこの要求をのみ独立を果たします。
しかし結局不満が拭えない彼は権利を買いとることを決意しますが、これまた突きつけられたとんでもない額の請求を支払うため妻に内緒で10万ドルの借金をします。
これが資本主義の中で居場所を確保するための、私の最初の正念場だった。この苦しい時期があったからこそ、マクドナルドを成功させることができたと思う。この経験なくして、後に迎える、想像を絶する膨大な債務を背負った苦境を乗り切ることは不可能だったろう。
この時期に問題に押しつぶされない方法を彼は学んだそうです。
一度に一つのことしか悩まず、問題をズルズル引きずらない。
マルチミキサーの販売を続けますが限界も見えてきました。マルチミキサーに代わる商品を探し始め、折りたたみ式ダイニングセットを販売しますがうまくいきません。
そんなときカリフォルニアでマクドナルド兄弟がマルチミキサーを駆使して大繁盛しているという噂を聞きつけカリフォルニアへ向かいます。
マクドナルド兄弟との出会い
マクドナルド兄弟のレストランはテイクアウト中心でサービスとメニューを最小限に抑え、ハンバーガー、フライドポテト、飲み物がテキパキとした流れ作業で提供され誰もが驚くほど繁盛した店でした。
彼は衝撃を受けます。そしてその夜
すると突然私の脳裏に、マクドナルドの店舗を、国中の主要道路に展開させるという考えがひらめいた。各店に置かれた八台のマルチミキサーが、ブンブン音を立てながら休みなく動き、お金をどんどんかき出してくれる。何とも魅力的な商売ではないか。
そして翌日マクドナルド兄弟に彼と組んでチェーン展開しないかと提案します。しかしマクドナルド兄弟は現状の生活に満足していて自ら多くの問題を抱えるような真似はしたくありませんでした。そこで彼自身がその仕事を引き受けることを決意します。
その後弁護士を交えて話しあいが行われます。そして彼はマクドナルド兄弟によってサインされたばかりの契約書を持ってシカゴに戻ります。バイタリティに溢れているようですが決して体調はよくなかったそうです。
私は五二歳だった。ビジネスに体を酷使し、糖尿病と関節炎を患い、胆のうのすべてと、甲状腺の大半を失っていた。
体ボロボロです。しかしそんな彼がその時の気持ちをこう書いてきます。
だが、生涯で最高のビジネスが私の行く先に待ち受けていると信じて疑わなかった。私は未熟で、成長の途中にあり、空を飛行しているような心持ちで人生を歩んでいた。
産みの苦しみ、そして発展
彼はシカゴで第一号店の開店に着手します。しかしすんなりとはいきません。
妻の反対、候補地の選定、店舗の設計の問題、マクドナルド兄弟との契約の問題、フライドポテトがうまく揚がらない…
なんとか開店にはこぎつけますが、店内業務がスムーズに進むようになるまで一年かかったそうです。しかし苦労のかいもあって売り上げは上々でした。
その後も様々な問題を乗り越えマクドナルドは発展していきます。次々とおこるトラブルをどうやって、どういう考えで乗り越えたのか、レイ・クロックの信念と行動が書籍には書かれています。
感想
熱いです。かなり熱いです。マクドナルドをここまで大きくした情熱はとても熱いです。
人は誰でも、幸福になる資格があり、幸福を掴むかどうかは自分次第、これが私の信条だ。
未熟でいるうちは成長できる。成熟した途端、腐敗が始まる。
やり遂げろ—この世界で継続ほど価値のあるものはない。才能は違う—才能があっても失敗している人はたくさんいる。天才も違う—恵まれなかった天才はことわざになるほどこの世にいる。教育も違う—世界には教育を受けた落伍者が溢れている。信念と継続だけが全能である。
こういった名言が本書の中ではポンポンとでてきます。信念の塊のような人です。
この本のサブタイトルは”世界一、億万長者を生んだ男”です。彼を信じてついていった人の多くが莫大な財産を手にしました。自分だけが儲けようとするのではなく周りも人たちも豊かにする、そういうところも成功した要因の一つなんでしょうね。