書評『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』

アレルギー、自己免疫疾患、消化器トラブル、心の病気、そして肥満。以前は少なかったこれらの病が増えてきているのは何故?その原因は体内の微生物のバランスの変化のせいかも。この本では体内に住む微生物が人間にとってどれだけ大きな存在か教えてくれます。

内容

感染症との闘い

病原微生物・病原体が感染することによって引き起こされる感染症が多くの人類の命を奪ってきました。

例えば18世紀のヨーロッパでは天然痘により毎年40万人もの死者がでたそうです。また1900年のアメリカでは死因の上位を占めていたのは肺炎、結核、感染性下痢症など人から人へと感染する病気でした。

猛威を振るった感染症でしたが、4つのイノベーションにより状況が劇的に改善されます。

  • 予防接種
  • 医療現場への衛生概念の導入
  • 公衆衛生対策
  • 抗生物質

耐性菌など不安要素もありますが、今のところ人類が感染症を抑えこんでいるようです。

21世紀の病気

しかし感染症に代わって増えつつある病があります。

アレルギー、自己免疫疾患、消化器トラブル、心の病気、そして肥満は「ふつう」だ。

周りに花粉症の人、アトピーの人がいても珍しいとも思いません。ネコを抱き上げないようにし、食品を買うときは原材料の欄をチェックして乳・卵・ナッツが入ってないか確認する。1型糖尿病でインシュリン注射を自分でする人が増え、関節炎を生じさせる関節リウマチ、腸を襲うセリアック病など免疫系が暴走して自分自身も攻撃してしまう自己免疫疾患に苦しむ人が先進国では人口の10%にもなる。そして1940年代は希少で病名さえついていなかったのに、最近激増している自閉症。これが「ふつう」なのか?と著者は問いかけます。

これらがいつ、どこで猛威を振るい始めたのか?それは欧米の1940年代だと指摘しています。

では何故これらの病が増えてきているのでしょうか。著者は腸内微生物の共同体、マイクロバイオータの乱れが原因ではないかといいます。

微生物の生態系の乱れ

人間の細胞の10倍の数の微生物が人間には住んでいるそうです。本書の原題「10% HUMAN」もそこから来ているのでしょうね。

腸管内だけでも4000種100兆個の微生物が存在して生態系を作り、かなり大きな影響を人間に与えているようです。

この生態系が抗生物質、感染症、不健康なダイエット、過剰な殺菌等によって乱されることがきっかけで、21世紀病を引き起こすと著者は言います。また出産時の帝王切開や、母乳ではなく粉ミルクを飲ませること、等も本来母親から受け継ぐべきはずの微生物を受け取らないことで乱れが生じるそうです。

微生物でダイエット

肥満の原因も微生物のせいかもしれません。

太るマウスと太らないマウスのマイクロバイオータを比較すると特定の菌が多いという違いが見られたそうです。人についても調べるとマウスと同じ結果。

そこで無菌マウスに太ったマウスと普通のマウスの微生物を移して同じ量のエサを与えたところ、太ったマウスの微生物を移されたマウスは太り、普通のマウスの微生物を移されたマウスは太らなかったそうです。

人間が食べたものを微生物が処理した結果、微生物によっては食べたカロリー以上のものを作り出す。

腸内細菌の組成費が、食べ物からエネルギーをどれだけ引き出すかを決めている。

人をコントロールする微生物

冬虫夏草と呼ばれる菌類の一種はアリに宿ります。するとアリはゾンビのようになり、アリの社会での通常の義務を放り出し、呆けたように木に上ります。そして葉っぱを見つけかみつき、死ぬまでそこに自分を固定するそうです。冬虫夏草はアリの栄養を吸収し成長して胞子を放出します。冬虫夏草が自分の繁殖のためアリをコントロールするわけです。

他にも狂犬病ウイルス、トキソプラズマなども宿主のふるまいを変えるそうです。

そして人間も微生物によって操られるという例があります。とある女性は18歳までは明るく健康だったそうですが、ウィップル病にかかってからはけんか腰で付き合いがわるく、性的にだらしない性格になったそうです。

また自分の子供の自閉症の原因が微生物のせいではないかと疑い追求している人が紹介されています。彼女の子供は感染症の治療のため抗生物質の投与をうけたのですが、治療期間中にふるまいがかわり、不機嫌に引きこもったり、突然怒り出したり、甲高い声を上げたり、どんどんおかしくなっていきます。そして結局医者から自閉症と診断されます。いろいろ調べまくった結果、破傷風菌が原因ではないかとの仮説を立て、協力してくれる医者もなんとか探し出し、これを殺す抗生物質を与えたところ、多動が驚くほどおちついたそうです。

他にも本書では微生物が多くの影響を与えていることが、実験結果を挙げて説明されています。

バランスを取り戻すためには?

どうすれば微生物のバランスを取り戻せるのでしょうか。

著者はヨーグルト、サプリなどのプロバイオティクスに関しては否定的のようです。逆に効果的と挙げられているのは糞便移植。健康な人の微生物の移植です。ちょっと心理的な抵抗が大きいですけどね、これは…

ちなみに著者はマイクロバイオータのために食物繊維の摂取量を増やしたそうです。

感想

ハードカバー、300ページ超、小さめの字、とハードル高そうに見えますが、非常に興味深い内容でぐいぐい読み進んでいけました。

読み終わった後一番強く思ったのは、自分って何?ということでした。自分が欲しい、自分が望んでいる、そう信じてやっていたことも実は微生物に操られていただけではないか?自分ではなく微生物が望んだことでは?ちょっと怖いですね。

脳が人間の司令塔のような印象がありますが、単に外部からの信号を受けて、ルールに応じて処理して、結果を返しているだけなのかもしれません。真のボスは一体誰なんでしょう…

将来確実に腸に微生物を大量に届けることができる微生物カプセルなんかができたらすごいですね。多くの病、心の病も含めて、を解決してくれそうですね。でも、そしたらまた別な病が流行りだすのかな…

  • アランナ・コリン (著),‎ 矢野真千子 (翻訳)
  • 河出書房新社