書評『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」を読みました。
現在に至る人工知能の発展の歴史・現状・これからの予想、社会に及ぼす影響、人工知能のウソ/ホント等について書かれています。読み物的な本です。この本を読んで実際にプログラミングしていく、という本ではありません。
内容
冬の時代
過去に2度人工知能ブームがあって今回が3回目のブームだそうです。1回目は1956年から1960年、2回目は1980年代。過去2回のブームは世間に煽られ期待されたけど”結局ダメじゃん”という烙印を押されてしまって、ブーム以降人工知能の専門家としては冬の時代だったそうです。今回の3回目では同じ過ちを繰り返してはいけないと著者は危惧します。でも、またまたとばしてる感じはしますね…今回が世間の期待を超えるものであればいいのですが。
人工知能とは
そもそも人工知能とは何か?という定義が実は定まってないそうです。著者としては
「人工的につくられた人間のような知能」であり、人間のように知的であるとは「気づくことのできる」コンピュータ、つまり、データの中から特徴量を生成し現象をモデル化することのできるコンピュータ
著者は人工知能と呼ばれるものを4つのレベルに分けます。
- レベル1 … 単純な制御プログラムを「人工知能」と称している
- レベル2 … 古典的な人工知能
- レベル3 … 機械学習を取り入れた人工知能
- レベル4 … ディープラーニングを取り入れた人工知能
最近のGoogleが写真から猫を認識したというのはレベル4です。人工知能搭載と呼ばれて宣伝されているものでもレベル1や2が断然多いのではないか、という気がしますね。
人工知能ブーム
過去の人工知能ブームにはポイントと乗り越えられない壁があったそうです。
第1次ブーム
- ポイント … 推論・探索
- 壁 … パズルや将棋はできても複雑な現実の問題は解けない
第2次ブーム
- ポイント … 知識
- 壁 … 知識の記述、管理することの大変さ
第3次ブーム
- ポイント … 機械学習、ディープラーニング
- 壁 … 人工知能に対する恐怖?
ディープラーニング
今回の第3次ブームのポイントであるディープラーニング、最近よく聞きます。
この本を通して一番大きなキーワードをあえて一つ選ぶとしたらタイトルにも使用されている”ディープラーニング”でしょう。ディープラーニングがなかったらおそらくこの本は書かれなかっただろうと思います。というかそもそも第三次ブームがなかったことでしょう。第二次ブームの壁をディープラーニングが突き破りました。次の壁にぶつかるまでどんなことを実現してくれるのか、楽しみです。
社会への影響
ただ不安もあります。一般人として気になるのは自分の仕事が奪われるのか、いうことですね。イギリスの産業革命のように多くの失業者が出てしまうのでしょうか。
別の不安としては映画のようにコンピュータが反乱して人間を滅ぼすかも、ということです。しかし著者はそのようなことはないと断言してます。個人的には…映画のように武器を持って人間を殺しにかかるということはないかもしれませんが、
- どこのスーパーやお店も自動発注が当たり前になって、店にはコンピュータが選んだものしか並ばなくなる
- コマーシャルは見ている個人を認識してその人にあった広告をコンピュータが選び表示されるようになる
- 調べ物をしたいと思って検索するとコンピュータがこれだよと教えてくれたものが表示される
- 体の調子が悪ければセンサーのデータをもとにコンピュータが診断して薬の処方をだしてくれる
既に実現していることも多いですが、これってもはやコンピューターに首根っこ掴まれている状態ですよね。予期せぬ事態が起こって人間に悪いものをお勧めするようになったら…
人工知能を使わないシステム、人間の指示通りに動いているはずのシステム、でさえ人間が予期しなかった動きをしてシステム不具合となります。人間の指示ミスなわけですが、まだ少なくとも何でこうゆう動きをしたのかログを調査しソースコードを読めば原因追及して改修は可能です(状況によってはできないこともあるでしょうが)。
人工知能が当たり前になったら何故こう考えてこんな動きをしたか調査しようと思うと…このコンピュータが何を経験してきて何を学習した結果こう判断したのか調査できるのでしょうか?デバッグとかどうやるんでしょう?重みづけを変えてどうなるか試してみよう、でしょうか?怖いですね。人間の予期しなかったことが起きるという意味では人工知能の方がはるかに可能性が高いでしょうね。
ちょっと不安な面もありますが、個人的には期待の方が大きいです。人工知能を作るというのは大変なことだと思います。新しい生命(の一部)を作ろうとしているといっても過言ではないと思います。
感想
人工知能についての歴史や技術等がまとまっていて全体を把握するにはいい本だと思います。
著者の言う「本当にすごいこと」/「実はそんなにすごくないこと」、「すでに実現したこと」/「もうすぐ実現しそうなこと」/「 実現しそうもないこと( 夢物語)」、を判断する知識は得られるのではないでしょうか。これを読んでおけばマーケティング的な「人工知能」という言葉に踊らされずに済むかもしれません。