書評『世の中ががらりと変わって見える物理の本』

世の中を劇的に発展させてくれる物理学。にも関わらず難しそうで、とても近寄りがたい気がする物理学。物理学ってなんの役に立つの?会社の売上あげてくれるの?とつい言いたくなる物理学。そんな物理学をちょっとだけ身近にしてくれるかも(?)しれない書籍です。

内容

第1回講義 世界でいちばん美しい理論

アルベルト・アインシュタインの相対性理論について、その理論が生まれるまでの流れと理論の内容が大まかに説明されています。

私たちは目に見えない硬い箱のような容器に入っているわけではなく、巨大でやわらなかな「軟体物」のなかに埋まっているようなものだそうです。そのため、物質の存在するところは空間が歪む。そしてその歪みが重力となる。地球が太陽の周りを回っているのは時空が歪められているからで、漏斗の内側をぐるぐると回っているビー玉に例えて説明されています。

第2回講義 量子という信じられない世界

私たちの生活を大きく変えた量子力学についてです。その登場から一世紀たつにもかかわらず、いまだに不可解で謎めいたにおいに包まれているそうです。

量子論的な考えでは、どんな物質も何かほかのものとぶつからない限り、決まった場所を占めることはありません。電子が次にどこに現れるのかを予測することは不可能で、私たちにはそこやここに現れる確率を計算することしかできません。全てがきっちりとした法則に支配されていると考えられていた物理学の世界に「確率」という概念が登場しました。

第3回講義 塗りかえられる宇宙の構造

人類の宇宙観の歴史についてです。

下に大地、上に天空があるという認識から、地球は天空に浮かぶものという認識になり、次に天動説、そして今一般的な地動説へと、人類の宇宙に対する認識は変わってきました。観測機器の発達により、さらにいろいろなことがわかってきたそうです。

第4回講義 不安定で落ち着きがない粒子

素粒子についてです。

私たちの周りに存在するものは原子からできていて、その原子は電子と原子核からできていて、原子核は陽子と中性子からできていて、陽子と中性子はクォークからできています。そしてクォークはグルーオンの力でくっついている。この世の中は電子・クォーク・グルーオン・光子などの素粒子からできていて、その素粒子は十数種類しかないそうです。つまりどんな複雑な物質も、その組み合わせできているということ。

これらの基本となる構成要素が、まるで巨大なレゴブロックのピースのように組み合わさりながら、私たちの世界に存在するすべての物質を形作っているのです。

第5回講義 粒でできている宇宙

量子重力理論についてです。

現代物理の二本の柱である「一般相対性理論」と「量子力学」。この二つの理論はいずれも、私たちの生活スタイルを大きく変えた現代のテクノロジーの基本となり、大きな貢献をはたしてきました。にもかかわらず、この二つの理論には大きな矛盾があるそうです。そしてその二つの矛盾する理論を統合しようと研究しているのが「量子重力理論」で、その中でも中心的なのが「ループ量子重力理論」。ちなみに著者はこの理論が専門だそうです。

ループ量子重力理論では空間とは連続的で滑らかなものではなく、「空間の原子」ともいえる粒によって作られているというものです。そしてその粒ひとつひとつは他の粒とリング状につながっていると考えるのだそうです。

第6回講義 時間の流れを生む熱

熱についてです。

昔は「カロリック(熱)」という名の流体が物質の中に存在すると熱くなるという説があったそうです。しかし実際には、”熱い”とは内部で原子がすばやく動き回っている状態とのこと。熱は熱いものから冷たいものへ移動しますが、何故かこのことが時間の性質とも関わってくるそうです。振り子を例にした説明がなされます。仮に摩擦がなければ、振り子は永遠に動き続きます。しかし摩擦があると熱が発生し、振り子はいずれ止まります。摩擦によって熱が発生、エネルギーが奪われスピードが遅くなるためです。つまり熱がなければいつまでも同じように振り子は動き続ける→過去と未来を区別できない、熱があると振り子は止まる→過去と未来を区別できる、との説明です。

ちなみに熱が熱いものから冷たいものへ移動するのは、そうなる確率が「高い」だけであって、絶対的な物理法則ではないとのこと。熱い物質の原子の方が運動するスピードが速いため、冷たい原子にぶつかって自分のエネルギーを与える可能性の方が、その逆よりも確率が高いだけだからということだそうです。

最終講義 自由と好奇心をもつ人間

この世界の構成要素でもあり、観察者でもある人間。素粒子の組み合わせに過ぎない私たち人間とはいったいどのような存在なのか。

残念ながら、というか当然ながら、本書でそのような根源的な問いに対する真の答えを示すことは不可能です。それでも著者は科学という光を当てたときに、世界や人間がどのように見えるのか、説明を試みます。

感想

原題の”Sette brevi lezioni di fisica”はGoogle翻訳によると”7つの短い物理学のレッスン”とのこと。その名のとおりこの本は7つの章(講義)からなりますが、約120ページ程度の薄い本なのですぐに読み終わります。

読み物的な本です。この本を読んだところで何かができるようになるわけではありませんし、この世の全てが理解できるわけでもありません。

科学というものは、私たち人間をとりまく世界をどのように理解したらいいのかをしめしてくれるだけではなく、私たちがいまだに知らないことがいかにたくさんあるのかも教えてくれるのです。

この世って一体本当のところはどうなってるんだろう?と興味を持っている人には一つのヒントになるかもしれません。この本を読んで宇宙の広大さや、この世の不思議さを考えると、普段の悩みがすこし楽になるかもしれません。

昔、地球の周りを他の惑星が回っていると思っていたのが間違いだったように、今当たり前だと思っていることが、実際には自分の思ってた形と違う可能性があるわけです。その気づきの一歩となる本だと思います。

個人的にはこの本を読んで一番印象に残ったのは「関係性」と「確率」という言葉でした。

  • カルロ ロヴェッリ (著), Carlo Rovelli (原著), 竹内 薫 (翻訳), 関口 英子 (翻訳)
  • 河出書房新社